新シリーズ Hikky’s way

”この男はいったい、何者なんだろうか?”



ヒカルは、夫の映画の主役に起用されたこの男優が、
監督の夫や、共演者の、某、ロックバンドのギタリストとともに
陽気にはしゃぐさまを見て、こう思っていた。


男娼?男版マタハリ?・・
それよりも、
この男、いったい”どっち側”の人間なのだろうか?



目の前で彼と対話している、某人気ロックバンドのメンバー
この男なら、立場は明確すぎるほど明確である。
何しろこの男は、”あのお方”相手に、裁判まで起こしているのだから・・・


彼は、かつては、ヒカルの宿敵である立場だった。


1998年末、彼女が、鮮烈なデビューを飾り、
その年のレコード大賞は、彼女以外にはありえないとさえ言われていた。
しかし、ふたを開けてみれば、ヒカルではなく、
目の前にいる男がリーダーを務める、ロックバンドが受賞した。


これに疑問を唱える有識者は多く、受賞した彼自身も、内心
本来なら、賞はヒカルに与えるべきだ・・・と思っていた。
どうして断らなかったのか??この質問は、意味の無いことである。
断らなかった・・ではなく、断れなかった・・が正解である。


己の権力を誇示したい、恩を売りたい権力者は、
やたらと恩を着せたがる。見返りも当然要求する。
権力者からの恩を断る代わりに、見返りも頂戴しない・・
そうすれば縁も切れる・・・
しかし、そうなれば、即、
”気前のいいおやっさん”が”恐ろしい敵”とかわるのだ。
急にはできない相談である。


結局、このやり方に疑問を抱いた彼は、この後に
裁判をおこすという強行手段をとってまで、
時間をかけて”あのお方”との縁を、
きっぱり断ち切るという方向を求めたのである。


というわけで、かつては敵同士であったが、
現在は、ヒカルとかなり近しい立場にある。
ヒカルが夫の映画に誘ったのも、そういう理由があった。


”しかし、わかんないのは、こっち側の男なんだよねえ”



相変わらず、彼は調子のいい男らしく、
バンドリーダーとの談笑を終えると、
早速、スタイリストの女性にちょっかいを入れていた。




この男、芸能界ではたいした実績もない


しかし、数々の、写真週刊誌のスクープなどで名を知られ
あれよという間に、芸能界での地歩を占めている
はっきり言えば、スクープ相手の女性、
映画で共演する女性のネームバリューを利用して、
ここまできたようなものである。



この男の最初の相手、ヒカルが三枚目のシングルを出すにあたって
イメージチェンジの、モデルとなった女性である。



このころ、ヒカルのモデルとなった女性は、
本人の持つイメージの問題で、CD売上の面で大苦戦し、
歌手部門から、撤退しつつあった。
この”凋落”には、目の前にいるあの男も、
一枚からんでいることはいうまでも無い。


彼女H・Rと入れ違いに、音楽シーンに台頭してきたのが
ほかならぬヒカル自身であった。
しかし当時のヒカルは、
ルックスは、垢抜けない田舎のイモねえちゃん風
洗練されているとは、とても言いがたい風貌であった。


ここ数年間、H・Rなどの美少女を、テレビで見慣れていて
目の肥えてしまった視聴者、特に男性の若者連中にとってみれば
いくら歌唱力にすぐれているとはいえ
ヒカルを、なんとなく物足りない存在だと思っていたのである。
カリスマ的に持ち上げるなどという状態までには行かず
そのような”歌姫”的扱いの歌手の座は、
ヒカルではなく、凋落しはじめたR・Hでもなく
むしろ、彼女達以外の、
新たな歌手の台頭をまっているようにも見うけられた。



そこで、ヒカルのスタイリスト達は
彼女H・Rをモデルとし、ヒカルのイメージチェンジをはかった。


何故、H・Rをモデルとしたのか?


それは、
マーケティングが必要なく、楽な方法だからである。


ヒカルが、彼女をモデルとするということは、おのずと
ヒカルを、若者男性の好みに一致させるということ。
つまり、彼女=一般の若者男性の好みということである。
若者の好みを、いちいちリサーチする必要が無い
売れているH・Rを真似すればいいこと・・というわけである。


凋落しかかっているとはいえ、それは歌手分野だけの話
ドラマ、CMの分野では
依然として、若者男性の巨大なシェアを維持している。
H・Rとは、貴重な”生きたマーケティングのサンプル”
そういうことである。



”だけどあの子にとって、こいつはいったい何だったんだろう?”


ヒカルは、疑問におもうのである。
H・Rが、彼とつきあって、特をしたとは到底思えない。
利用されるだけされて、捨てられただけのようにも思える。
そうするとこの男、H・Rとは
逆の陣営の、息のかかった人間ということになる
そうすると・・敵??。


”でも男女の仲って、わからないものだし・・・
あの子だって、
実際に舞台でそんな役やってた訳じゃあないの


スパイかも知れぬ相手と・・道ならぬ恋・・ってやつね
なんともありがちよね・・でもそれって
あの子じゃなくて相手役の筧さんの立場だわね”


そんなことを思いながら、ヒカルは、
目の前に向かってくる男に声をかけようとした


”伊勢く・・・”
”やー元気ーーー。”




相変わらず、調子のいい男である。
これにはあのT・貴子も辟易していたらしい。ヒカルは呆れ果てた。




>>つづく