15

>”だろうな。勝ってたら、こうして、僕の前で
こんな話しているわけないか。ははは”




このときの高井は、
自分を嘲笑するかのごとく
いつまでも笑いつづけるこの男の前で
一言も言い返すことが出来なかった。



今思えば、言葉を発するかわりに、”自分はこれでいいんだ・・”
と、心の中で、懸命に、自分に言い聞かせていたわけである。
プライドを捨てた男の、宿命だったのかもしれない。そして



自分と、ライバルである、
当時の、TBSエースプロデューサー、そして現在でもそうである
U田H樹との違いは何だ?
もしかして、プライドを捨てた男と、
あくまでそれを捨てなかった男の違いだったのかもしれない。
現在では、こうも考えている。



U田だったら、こんな状況を前にして、なんと言っただろうか・・・
まあ、彼だったら、俺と違って
こんな状況を前にすることなぞ、金輪際ありえないだろうが・・



とにかく、そのころの高井は、そこまで考えをめぐらすことはせず、
川村氏のプロットを、いかにして実行に移すか
ただただ、それしか考えていなかったのである。



まず、連中に、駄作をあてがわねばなるまい・・・



癒し系クーデター。これは、E島外しということである。
これは第二目標としての、鈴木K香外しでもある。



これは、既にマスコミで月9ドラマ”バス=ストップ”の不調が
E島個人の私生活に原因がある・・・と、
既に、責任のなすり付け工作をしていたので
月9追放の口実は、既に出来ていた。
だから彼女の復活を阻止すればいいことである。これは簡単である。



あとは、新たな癒し系として、
K村さんたちが推す、グラビア連中の担ぎ出しに協力する。
それくらいである。



だが不安要素は多い。
彼女達は、演技の実績がまるで無いのだ。
果たして、E島が出てきたときの強烈なインパクトを、超えられるだろうか?



おそらくE島に、よほどのダメージを与えないと、
彼女を超えることは難しいだろう。
連中のブレイクが失敗すれば、E島は簡単に復活し、
癒し系の座を、容易に奪回することが可能だろう。



清純派クーデター。これはTBSで、堂本や田村共演作などで成功し
アイドル系女優の座に踏みとどまった、H末、F田、I脇らを追い落とすことである



そして、その反動で、”業界が使い勝手がいいタレント”としての
U香など、癒し系連中、あるいはS防氏の推す
ムーン・ザ・チャイルド所属の、
いまいちぱっとしないアイドル連中の、担ぎ上げに協力する。



これは、もっとも手ごわい。
よって、おそらく、もっとも大掛かりなクーデターとなるであろう。
彼も、U香の演技や、S井W菜などのプロモビデオを見させてもらったが、
”とてもじゃあないが、このご面相じゃあ・・”という感想であった。
これも、H末、F田、I脇など、トップ連中に、
よほどのネガティブイメージが無いと
到底、視聴者は、起用に納得しないであろう面々であった。



”とにかく、視聴者からの需要なぞ知ったこっちゃない。
頼まれた人を使い、頼まれなかった人はつかわない
ただそれだけだ。



E島、H末、F田。君達には気の毒だが、
君達は、それで潰れるようなタマじゃないってことを
俺達はちゃんとわかってるさ
だから少々叩いたところで、バチはあたるまい。



だけど、K村さんやS防さんの推す人たちは
とてもじゃあないが、ハンデつけてあげないと
売れそうも無い人たちなんだ・・だから許してよ



あんたらが芸能界でいつまでものさばってると、
後続が売れなくて、連中は飯の種に困ってしまうんだ。
だから少しでもいいから、仕事を分けてもらいたいんだ。
それが俺達からのお願いなんだ・・・”



彼はこう考えて、必死に自分を弁解しようとしていたが
いま思えば、このときの彼は、すべてが茶番だったことを、
何となく感じとっていたのかもしれない。



永遠の勝ち組として、いつまでも生き残る側
反対に、一時期のアテ馬として、利用されるだけされて
あっという間に消える側
世の中には、二つの立場があることを
そしてそれはタレントの世界だけでなく
ドラマプロデューサーの世界でも同じだということを



そして自分も、タレントの井川、U香らがそうであるように
あきらかに、後者の立場だということを・・



続く